本「名もなき毒」宮部みゆき著

これもだいぶ前に読んだ本ですが、けっこう強烈な印象が今でも残っています
財閥企業で社内報を編集する主人公・杉村三郎は、トラブルを起こした女性アシスタント・原田いずみの身上調査のため、私立探偵・北見のもとを訪れ、そこで連続無差別毒殺事件で祖父を亡くしたという女子高生と出会います
それぞれの事件が徐々に解明されていく…というお話です

宮部みゆきさんの本は私の母が好きで私も読むようになったのですが、読み終わって何かと考えさせられることが多い気がします
ただ、そのときの気持ちはかなりネガティブで「できたら知りたくなかった」「早く忘れてしまいたい」といった気持ちになるんですよね…

このお話は「誰か —-Somebody」にも登場した主人公が出てきますが、「誰か —-Somebody」を読んだときにも感じた「不快感」をより一層感じました
地中に潜んでいる毒と人間の心の片隅に潜んでいる毒が同時に描かれ、どのような形でさまざまなものに影響を及ぼしていくのか…そんな「毒」が誰の心にも存在するであろうことを感じて怖くなりました

問題を起こしたアシスタントの原田いずみほどの強烈な人を私は実際には知らないけれど、自分の都合のいいようにものごとを解釈し、その人の中でいつ しかそれが真実・事実となってしまい、それを盾に人を批難したり攻撃したりするようなタイプの人がこの世に存在しているのは感じます
やっぱり人間は自分がいちばんかわいくて、自分の考えがすべてで、自分の感じることが正当で、自分と違う意見を持つ人や自分の考えを否定するような人に対 し、端から見たら理屈にもならない理屈を作り出してそれらを否定し、自分をますます正当化するという防衛本能みたいなものを持っているんじゃないでしょう か
人と意見が違っても「そういう意見もあるのだ」と認めることもできるけれど、自分が深く思い入れのあることに対しては絶対に譲れなかったりします

よく「個人主義」と言いますが、個人主義は好き勝手なことを個々がやってもいいってことじゃないですよね
個人主義とは個々は基本的に違うということをきちんと理解し、意見や思考が違っても相手を尊重し、それぞれが存在を認め合うということだと思います
日本人は「言わずして気持ちを思いはかる」文化を持っていますが、「自分はこう思うのだから相手もそうだろう」という考えの上に成り立っているように思います
そんなふうに思いやれる文化は素晴らしいと思うし、誇るべきものだと思うけど、考えも生活リズムも思考も多様化している現代では必ずしもそれでうまく行くとは限らなくなっているのかもしれません
私なんてアキバ系などまったく理解できないでいますが、世の中にはそれを良しとする人は多いですし、「あれをいいと思っている人たちもいるんだな」くらいに思っています
ここで「まったくあんなののどこがいいんだ、バカじゃねえか」などと毒を吐き捨てては行けないとも思っています
それでも心の片隅では「なんであんなのが…」思ってしまうことがなきにしもあらず、です
こういう思いが何らかの偶然によって外に出てしまい、他を傷つけることにもなりかねないのでしょうね

このお話を読んですっきりしない気持ちになったのは、苦労して苦労してまじめに生きてきた青年が心の片隅に存在する毒によって犯罪を犯してしまったから…
世の中には苦労らしい苦労もせずに生活し、罪悪感も感じずに悪いことをやっている人はたくさんいるというのに、本来なら犯罪を犯すような人ではない人が何 かを引き金に罪を犯してしまうということは実際にもあるのでしょうけれど、「そういうものだ」とは思えず、「なぜ」という思いが残りました
宮部みゆきさんの作品にはこういう「罪を犯すような人じゃないのに」「そんな不幸な目に遭うような人じゃないのに」という人たちがたくさん登場するように思います
それが現実だと言われればそれまでですが、読んでいる方としてはかなり気が滅入ってしまう…そんな気がします
以前母が「模倣犯」を読み、「読んでいられない」と途中でやめてしまった(私は最後まで読んだけど)のですが、何となく気持ちはわかるんですよね

私は主人公の杉村三郎がどうも好きにはなれないでいます
「誰か —-Somebody」のときにもそう思って、今回もそう思いました
周囲の反対を押し切って菜穂子と結婚したのに、心底菜穂子を愛しているとは言えないほどさまざまな疑問を抱えて家庭生活を送っている三郎が卑屈に見えて、なんだかイヤになるんです
彼がどこに心のよりどころを持ってこの生活を続けていこうと思っているのかが見えないのです
語られるのは夫としての責任・父としての責任・義理の息子としての責任ばかりで、本心はどこに??と思ってしまいます
小説だからしょうがないけど、探偵でもないのにいろんなことに首を突っ込みすぎるし、本当は罪を犯すような人じゃない人が彼によって追いつめられたり、「うーん」という思いでした
まあお話ですから…の一言に尽きるのですけどね

それにしても…原田いずみは怖い!!
ああいうタイプの人とは関わらずに生活したいものです
くわばらくわばら〜

INFORMATION:
アマゾンの「名もなき毒」ページ

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2 Responses to “本「名もなき毒」宮部みゆき著”

  1. marikonoma Says:

    近くの本屋さんの文庫本のベストセラーになっています
    宮部みゆきさんの小説は一気に読んでしまいますよね

    原田いずみ・・げんだいずみ って読むのでしたよね
    自分の非を認めないで逆恨みをするという人が程度の差こそあれ、少なからず存在する・・・と思います

    管理人さんもおっしゃるように、関わらないで生活したいです、ほんとに。

  2. chucchy(管理人) Says:

    marikonomaさん
    ベストセラーになってるんですか…知りませんでした
    けっこう前の小説だけど、単行本になるまでにはタイムラグがあるのでしょうね
    このシリーズでまた小説が出るかもしれませんね
    この主人公の家族がどうなるのか知りたいような知りたくないような複雑な気持ちです

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